フィッティングと違和感
2021/06/10
本日のblogの難易度【★★★★★】
今朝の体重は76.7キロ。
今朝のYouTubeチャンネル登録者数は594人。
さて、先日いらした方は、学生時代からうちのお店は知っていたけど、
高いお店なので自分には買えなかった。それが10年越しで
念願叶い眼鏡を買ってくださいました。
ところが、お渡し後数週間、どうも見え方が優れないと
再検査の予約を頂きました。
お客様の主訴はこんな感じでした。
遠くは問題なし、
でも下に目を向けると床が浮いて見える。
更に視界の端に行った時に距離感がずれる。
だから視界の中心しか使えない。
っとこんな感じ、お仕事がクレーンを操縦する仕事だそうですから、
これでは仕事になりませんから、なんとかしなくてはいけません。
早速度数を見てみると強度の乱視、しかも
今回は二段階程乱視を強めて、より遠くが良く見えるように
僕は度数設定していました。
この乱視を強めた事が、この違和感の原因、
まずファーストインプレッションはそれですし、
実際にお客様も、同じ度数に戻してくれませんか?
っと度数変化が原因だと思っている様です。
ですが原因の特定には
物凄い時間が掛かります。度数を弱めてしまうと
最高視力が出ない事既に確認済みなので、乱視は弱めたくないな~
っと感じていてもいました。
だから僕もその可能性もある、と思いましたが、
一方、それ以外にも原因が生じている可能性があるので
一応結論めいた事は言いませんでした。
次は加工の問題、お客様は、アイポイントを僕の作った状態よりも、
少し下げて欲しい。とおっしゃていました。
これもその通り可能性があるな、っと思い、
新旧の眼鏡のアイポイントを測定しました。
僕の作った眼鏡は約1mm程アイポイントを下げて加工し、
お客様が以前に使っていた眼鏡のアイポイントは3mm下げていました。
グラシアスではアイポイントをレンズのほぼ光学中心に合わせています。
(実際には人は歩く時に数メートル先の地面を見て歩く事が多いので、
若干下方視する事を考慮して少し下げる事が多いのです。)
この光学中心が光学性能が一番優れているスポットです。
その優れているポイントを下げるという事は、下に目線を向けた時に、
その優れて歪みの少ない領域が床方向にシフトします。
これもお客様のご要望が正しい可能性があります。
ですが、一方そのアイポイントを下げた状態で
目線をまっすぐ前に向けると歪んでいる領域を通して物を捉える必要があり、
場合によっては視力は低下しますし、歪みを感じる事もあるでしょう。
ですが良くも悪くも前のメガネのアイポイントを下げた状態に
慣らされていた可能性があります。
ここまでを整理すると
①乱視度数を弱度化
②アイポイントを下げた状態に加工し直す。
と二つの改善案が出てきました。
ですが僕はすぐにその対策をしますと言いませんでした。
僕は、
「お客様の仰っている二つの対策は効果がある可能性はあります。
でも効果が無い可能性もあるのです。別の原因でこの違和感が発生している可能性があります。
それはフィッテイングです。フィッテイングが上手く行っていないと
今お客様が感じる違和感が生ずる可能性があります。
だから先ずはフィッテイングの見直しをさせて頂けませんか?」
っとお願いしました。
僕は前傾角や頂間距離、場合によってはそり角の変化※で
改善しようと考えていました。
※ただし今回はそり角は測定した上でレンズ発注していました。
そこで今までのメガネの前傾角や頂間距離を測定してみました。
【今の眼鏡(旧度)のパラメーター】
・前傾角8°
・頂間距離10mm
【新調した眼鏡のパラメーター】
・前傾角0°
・頂間距離12mm
僕はこれを見た瞬間にあっ!っと思いました。
今回はレンズ発注をした時に前傾角は4°に設定していました。
にもかかわらず、前傾角がまるでなく、目線を下方に向けると
目線とレンズは直行しません。
これはどんなレンズでも大なり小なり生じる収差の発生理由ですが、
流石に0°はまずい、そこで前傾角を極端に10°くらいまで持っていきました。
すると明らかにお客様の反応が変わります。ただし少し前傾角を戻した方が反応が良かったのです。
そこで8°と6°で比較し最終的に相談しながら、手元を重視して8°に決定しました。
これで床の盛り上がりは殆ど気にならなくなった。
でも視界の端ではやはり歪むと仰っています。
そこで今度は頂間距離を調整し変えます。
新調したメガネは12mmですが、
それを10mmに調整し直しました。
お客様に様子を伺ってみると
「お!これで殆ど気にならなくなった。」
前傾角をつけると何が変わるかは以下の図です。
上の図を見ると下方視する時にレンズ面と
赤い矢印が直行するのは、前傾角をつけた方ですね。
今回いらした時には左のレンズの様になっていたと理解してください。
そこで前傾角をつけたのです。
次はアイポイントの説明図です。
上の図で言えば、アイポイントを下げると下方視した時に
光学性能の高い部分を通して視界下部を見渡せます。
これが大きいのです。
では角膜頂点間距離(以下頂間距離)をつめて
目に近づけると何故視界の端が歪むのでしょう?これも検証してみましょう。
この様に同じ目線移動量だったとしても、
レンズの中心に近いところをレンズを近づけた右目のレンズの方が通ります。
これにより視界の端を使わずに周辺部を知覚出来ると理解してください。
さてこの様に今回は
①乱視度数を弱度化
②アイポイントを下げた状態に加工し直す。
③前傾角をつけて再調整
④頂間距離をつめて再調整
これらで改善する余地があったのですが、
結論を言えば③と④を調整した「だけ」で
大幅に改善し、①と②の必要性がほぼなくなりました。
この様に眼鏡を機能させる事には、
様々なノウハウがあり、
少なくとも視力測定、レンズやフレームの加工、
更にフィッテイング、これらを高度にバランスさせないと
眼鏡は狙った性能を発揮できないのです。
そしてそんな事は日々お店に居ても、
本blogでも何度も口が酸っぱくなり耳にたこが出来る程に
言い続けてきたのに、お渡しの際にその僕の狙った加工が出来ていなかった事に
気づけずにこうしてお客様にご迷惑をおかけしてしまいました。
今回の失敗を機にこれから更にその眼鏡を仕上げる手続きを
仕組み化しなくてはとふんどしの紐を締め直した次第なのです
それではまたこのblogでお会いしましょう。